スポーツの指導者はもちろん、どのような世界であれ、これから指導的立場に立つという人なら、本書から得るものが大きいはずだ。
著者の中竹竜二は、2006年から4年間早稲田大学ラグビー部の監督を務め、07、08年と全国大学選手権を連覇している。だが監督としてのスタートは決して順調ではなかった。監督就任前も含め、波乱含みの1年目について細かい心情を記しているところに本書の価値がある。
前任者は選手時代から有名で、監督としても大学選手権を2度制した清宮克幸だった。中竹の監督としてのキャリアは、このカリスマと常に比較されるところから始まった。例えば、監督就任直後の春のシーズン、ライバルの関東学院大にノートライで完敗した時だ。屈辱的な敗戦後に「選手たちには悔しさとは別の感情が隠されている」ように感じたと中竹は振り返る。「彼らの顔には『負けたのは監督のせいだ』とはっきり書いてあった」のだと。
実際に学生たちには「監督が的確な指示を出してくれない」などの不満が溜まっていたという。それを知った中竹は、自分なりの方法で選手の信頼を勝ち取っていく。本書に描かれたその過程は読み応えがあり、考えさせられることが多い。
著者は結果的には監督として早稲田大を頂点に導き、成功者となる。本書が教えてくれるのは、成功者にもできることと、できないことがあるという事実である。自分にできる範囲で最大限の力を発揮する人が、成功をつかみ取る。要は自分の良さを活かすことで、物事は成功に向かうのだと痛感した。
不安な心情を隠さず、チームの在り方や選手との距離感などを考え抜く著者の姿勢の中に、私のこれからの人生に活かせるような内容が多くあった。ラグビーという域を超えて伝わるものがあった。他の人の考え方を細かく知ることがいかに大事か、本書を通じてあらためて分かった。
(江戸川大学マスコミ学科、宮下凌)
Comentarios